JLCカロリメータ・Si−PAD部の研究開発

大久保 俊宏


Abstract


   1986年に高エネルギー委員会によってJLC(Japan Linear Collider)計画が 提案された。
   この計画の内容は、全長約25kmの 電子-陽電子衝突型直線加速器の建設と、 そこでの高エネルギー素粒子実験で、これが実現すれば、新しい素粒子の発見や 素粒子の標準理論の検証など 新しい理論を作り上げるための基礎となる多くの知見が得られるであろう。
   加速器の建設は、重心系エネルギー500 GeV の衝突実験から開始し、 加速器の段階的な改良により、衝突エネルギーをTeV領域まで 上げる予定である。
   電子-陽電子衝突型直線加速器とは、リング型加速器に比べて放射光損失が少な い上に、 加速した粒子のエネルギーを効率よく生成粒子の質量エネルギーに変換出来る。 又、衝突により発生する事象 も綺麗なイベントが多いため細かい解析が比較的容易である。
   このJLC計画には多くの最先端技術が必要であり、実用化には解決 しなければならない問題も多い。それら1つ1つをテストしていき 実用化への目途をつける必要がある。
   JLCの検出器は大きく分類して、バーテックス検出器・中央飛跡検出器( ドリフトチェンバー)・カロリメータそしてミューオン検出器から成っており、 この中のカロリメータの一部にSi-PAD検出器がある。
   カロリメータの主目的は、衝突点で発生した粒子のエネルギー測定、 通過位置の決定、及び粒子の弁別等であるが、Si-PAD検出器は細分化され たSiフォトダイオード (Si-PAD)を用いる事により、それらをより精度良く求めるためのものである。
   この論文では、1PADの大きさが1.0cm×1.5cmのSiフォトダイオード を216PAD敷きつめて製作した有効面積18×18cmの Si-PAD検出器の実用模型を使ったテスト実験について述べる。
   製作したSi-PAD検出器は、90Srのβ線や宇宙線中のミューオ ンを使ってテストをした。 また、Si-PADからの信号を増幅するためのアンプに関するテストも行なった。
   甲南大学とKEK、神戸大学が共同でカロリメータ部分の実用模型を造り、 これに1-4GeV/cの運動量を持つ粒子ビームを当てテストを行なった。 これにより、Si-PAD単独での位置精度と、電子と荷電パイオンの弁別性能を調べた。
   又、カロリメータ部分で起こるシャワーの モンテカルロシミュレーションを行ない、実験結果との比較も行なった。
   その結果。電子によるカスケードシャワーのSi-PAD検出器における総粒子数は 4GeV/c電子の時、実験結果とシミュレーション結果とでは約5%の誤差で一致した。 そして、Siフォトダイオードを使った電子と荷電パイオンの弁別能は、3GeV/c 電子の時、Ee=96.4(%)(電子の検出効率)、Rπ=9.8(%)(パイオンの混じる割合) である事が判明した。