水チェレンコフ光検出法による小規模空気シャワーの観測

米納 盛浩


Abstract


   高高度(Tibet羊八井、標高4,200m)において 数百GeV領域のガンマ線(宇宙線)を観測することを目標とし、 そのための実験技術、シミユレーション法を確立するために 乗鞍宇宙線観測所(標高2,800m)において、 水チェレンコフ検出器を設置し観測した。
   実験では、3台の直径2.2m、高さ2.2mの水槽用タンクを、 一辺10mの正三角形の角頂点に配置し、 それぞれのタンク(水深約1.6m)の底に8”¢ 光電子増倍管(PMT)を沈め、空気シヤワー電磁成分によって 生じる水中チエレンコフ光を検出した。
   観測実験中、水漏れなどによるトラプルは発生せず、 PMTは水中でも安定して動作することが確認できた。 また観測期間全般にわたり透明度は良好に保たれた。
   観測は1995年9月〜10月の約1月間行われ、約1.5±0.5×107の 空気シャワーイベントが検出された。この時のトリガー条件は、 3台のPMTの各々に1個以上のチェレンコフ光による 光電子(p.e.:photoelectron)が、相互の時間差100ns以内に検出された場合とした。 記録された空気シャワーのp.e.数の含計数ΣWCp.e.の分布領域は、

3p.e. < ΣWCp.e. < 3000p.e.

で、最頻領域は、<ΣWCp.e.>=10〜20p.e.であった。
   また、タンクアレイの周辺に配置した6台のシンチレーション検出器群 (シンチアレイ)との比較による角度分解能(50%値)は、15°であった。

   この観測実験と比較するために計算器によるシミユレーションを行った。 一次宇宙線(陽子)の入射による空気シヤワー発生コードとして Cosmos、水中での電磁シャワー過程のコードとしてGEANTを用いた。 このシミユレーションによってトリガーされたΣWCp.e.の分布領域は、

3p.e. < ΣWCp.e. < 1000p.e.

で、最頻領域は<ΣWCp.e.>=20〜30p.e.であり、 分布の形は30p.e.<ΣWCp.e.<1000p.e. において実験と良く一致し、シミユレーションの正しさが確かめられた。 また、一次宇宙線(陽子)のエネルギー:Epが 1TeV〜50TeVでは、タンクアレイの角度分解能は12〜10° 程度であり、これもシンチアレイとの比較によって得た実験値と一致した。
   このシミユレーションによって、実験ではエネルギー分布領域 70GeV < Ep < 800GeVの空気シヤワーが全体の60%を 占めていると推定される。このことから、水チェレンコフ光検出技術によって 100GeV領域の空気シャワーが乗鞍岳高度においても観測できる事が判明した。
   しかし、ΣWCp.e.と一次入射エネルギーとの問には 相関関係が希薄で、今回のような3台の水チエレンコフ光検出器のみによる 観測だとエネルギー決定がほぽ不可能である。多くの水槽を 広い範囲に分布させて水チェレンコフ光を検出することによって 角度分解能、工ネルギー決定精度を上昇させる事が大切である事がわかった。