チェレンコフ望遠鏡による超新星残骸からのTeV 領域ガンマ線の観測

茶本 展孝


Abstract


   近年高エネルギーガンマ線天体を発見する試みが多くのグループによって 続けられてきた結果、わが銀河系内では超新星残骸であるかに星雲、Vela Pulsar、 PSR1706-44、SN1006、また銀河系外ではMkn421、Mkn501 といった天体からのTeV領域の ガンマ線を検出する事に成功している。この様に宇宙における 高エネルギーガンマ線つまり電子、陽子などの宇宙線を加速する 『加速エンジン』の存在とその機構を明らかにするための知識が集まりつつある。
   我々は、アメリカ・ユタにおける口径3mのチェレンコフ望遠鏡により、 高エネルギーガンマ線の標準光源となっている超新星残骸の かに星雲(40時間観測)を解析した.解析ではバツクグラウンド光の分離除去、 つまり陽子等一般の宇宙線源の空気シャワーを効果的に取り除く事に成功し、 かに星雲の方向からはバックグラウンドに対して4.7σの有意性を持った信号を 検出する事が出来た。この積分強度は3TeV以上において 2.8 × 10-12 cm-2・s-1となり、 Whipple、HEGRA、CANGAROO等の各グループと一致している。 この様に既存のグループの結果と一致している事により、 本装置による観測とデータ解析が正しく行なわれている事を確認出来た。 この結果をふまえて、超新星残骸CTA1(28時間観測)の観測デー夕を解析し、 高エネルギーガンマ線放射の可能性を調べた。
   超新星残骸CTA1は角半径0.75度、月の半径の3倍という大きさの球殻状をしているが、 この殻の部分から強いX‐線や、電波が検出されている。 解析の結果この部分に2.7σの有意性が得られた。 このレベルでは高エネルギーのガンマ線の放射が確認されたとは言えない。 しかし、一定の可能性を示唆していると考えられる。敢えてこれを信号と見なして ガンマ線放射強度を求めると、3TeV以上の積分強度として 3.5 × 10-12 cm-2・s-1という値が得られた。 これはかに星雲と同レベルの明るさであり、さらなる観測を続け この可能性を確定する事が重要である事がわかった。
   シェル型超新星残骸は、そのシェルが高速で膨張しつつショック加速により 数百TeV領域にまで陽子等の宇宙線を加速しているという説が近年支持されているが、 現在までこの様な天体としてはSN1006のみである。CTA1が期待されている“第二番目”の 超新星残骸である可能性が検出できたと言えるだろう。